ヒナには、あの有名な息子マウイだけでなく、あまり知られてはないですが、4人の娘がいました。名前は、ケアヒ(Keahi)、
ケカイ(Kekai)、クルウア(Kuluua)、そしてマフイア(Mahuia)といい、それぞれヒナから別々に特別な力を授かっていました。
また、ハワイ島ヒロには、ハライ(Halai)という名の丘と、プウホヌ(PuuHonu)という名の丘がありますが、
ヒナはハライの丘をケアヒに、プウホヌの丘をクルウアに与え、娘達がそれぞれの家族を十分に養えるよう配慮してやっていました。
それぞれの丘は肥沃な土地で、人々は十分な恵みを与えられ平和に暮らしていましたが、ある年のこと、近来まれな
大干ばつが訪れます。雨は一滴も降らず、タロ芋は全滅し、バナナとサトウキビの気は倒れ、果物の木も台無しになってしまいました。
人々は餓死寸前で、まるで幽霊のようです。ケアヒはこれを見て大変悲しみ、彼らに食べ物を与えるための方法を
考えます。ケアヒは人々を集め、盛大なイム(imu:蒸し焼き)の用意をするように言います。たくさんの枯れ木や石が
集められ、また、イムに供する食べ物は、食べ物がないので形が似た木切れが集められました。
そしてイム当日。ケアヒは人々に、タロの場所、豚の場所、バナナの場所などを指示していきます。本物が供えられるわけでは
ありませんでしたが。そして、最後に、生贄の人間の場所を決めるよう指示します。人々は動揺しましたが、みんな既に状況に
絶望していたので、特に騒ぎもなく、誰が犠牲になるのだろうと怯えながらも指示に従います。
ケアヒは人々に、演説を始めました。
「私の村人達、一体どうしたというの?私の言うことを聞いてくれるのかしら?このイムは、私のイムです。私が、焼ける石のベッドに
横たわるのですよ。私は、かけられた土の中で眠るのです。でも、深く埋めてくれないと私は本当に死んでしまう。
私が横になったら、火をおそれずに、素早く土をかけておくれ。そうして、3日間待ちなさい。3日たったら、このイムのそばに、
ある女性が現れます。あとは彼女の指示に従いなさい。」
そうして彼女はゆっくりと階段を上り、焼け石に横たわるために進んでいきました。もともと美しかったケアヒは、
ますます輝くように美しく見えました。
人々は大急ぎで彼女に土をかぶせ、じっと待ちました。もうもうとした煙がたち、ハライの丘は地震が起きたかのように
揺れました。いっぽう、ケアヒは、予定通り、黄泉の国に入り、そこで水と食べ物を求めます。もともと彼女は神でしたから、
焼け死んでしまう心配は無いのでした。
3日経ち、人々のところにケアヒは戻り、速やかにイムを掘り起こすよう言います。掘ってみるとなんとそこには、
莫大な量の食べ物が埋まっているではありませんか!人々は驚喜します。もうこれで飢える心配がないこと、
そして、ケアヒが無事に帰ってきてくれたことに。
人々が飢えていたのは、もう1つのプウホヌの丘でも同じでした。クルウアは、美しい姉のケアヒを嫉妬していましたから、
ここは自分もイムをおこなって人々の人気を得たい、と考えました。
手順は同じです。同じようにプウホヌの丘でイムの準備をさせ、クルウアは同じように横たわります。が、ケアヒは火の女神、
クルウアは雨の女神です。いつまでたっても煙はたたず、雨雲が集まってきただけでした。当然のことながら3日経っても食べ物が
出てきたりもしません。
クルウアとて神の仲間ですから死んだりはしませんでしたが、その魂は遠く空のかなたにさまよっていき、ようやくのことで、
鳥に姿を変えて追いかけてきてくれたマウイに助けられたのでした。
おわり。