ハワイの火の女神ペレの夫になったカマプアア

カマプアアは、オアフ島を根城とする半神で、普段はハンサムな族長の姿をしていますが、いったん怒って本性を現すと恐ろしい八ツ目の豚に変身し、また、時によってはフムフムヌクヌクアプアア(和名はモンガラカワハギ科のタスキモンガラ)という魚になる、という3つの姿を持っています。フムフムヌクヌクアプアアを直訳すると、grunting-angular-pig、「ぶうぶう鳴く角張った豚」ということになるのですが、実際、変な形で鳴く!魚で、非公認ながら、ハワイ州の州魚になっているようです。 フムフムヌクヌクアプアア

カマプアアにまつわる伝説もたいそう多く、本も1冊あるくらいですが、ここでは、ペレとの関わり、という観点でカマプアアの物語をご紹介します。

ある日、カマプアアは「レホ(leho)」という、小さくすれば手のひらに収まり、大きくすると一族郎党を連れて乗れるほどの大きなカヌーに変わる魔法の船に乗ってハワイ島へ到着します。(フムフム・・・になって渡ったという説もある)到着したのはハワイ島南東端のクムカヒ岬。ここからしばらく森に分け入り、火口の端で休んでいると、眼下に、ペレと姉妹達が「炎の舞」を踊っているのが見えます。

やがて彼女たちもカマプアアに気づきます。カマプアアは、人間の姿をしているときは、驚くような美男子です。彼女たちは急にざわめき始め、彼の気を引こう、などと考え始めます。しかし、肝心のペレは、さすがにすぐさま「あれは人間じゃない。豚だ。多分怒るとすぐに本性を現わすに違いない」と見抜き、彼に噴煙を浴びせ始めます。ところが彼も大したもので、二言三言何かつぶやいただけで噴煙をかき消し、平然として座っているではありませんか。

普段なら?この後は、島中を戦場にした悲惨な戦いが始まるところですが、今回は、姉妹達が止めました。そして兄の温厚なカネホアラニを仲介に、ペレの家族の一員として迎えることになったのです。ペレとカマプアアは夫婦生活を始めます。やがてオペルハアリイ(Opelu-haa-lii)という子供まで産まれますが、さすがに火の女神の子、母親の気性の激しさについていけず、早逝してしまいます。(Opeluという魚の起源)カマプアアとの間にも暗雲が漂い始めます。それまで、もっぱら忍耐を重ねていたのは、当然?カマプアアのほうだったのですが、彼の、豚としての習慣や嗜好は、ペレのほうの我慢の限界を超えるものであったようです。

夫婦喧嘩は犬も喰わない、などといいますが、お互い半神同士です。ちょっとした喧嘩でも、ハワイ島全土を巻き込んだ戦いになってしまいます。ペレが地割れを作り、そこから溶岩流を噴出させると、すかさずカマプアアは海から大津波を起こして鎮火します。ペレが火山に逃げ込み、そこから毒ガスを噴出させれば、カマプアアは火口に大量の水を流し込み、大爆発を起こさせます。大地震が起き、いたるところに火口ができます。カマプアアは大雨を降らせ、全ての火口に水を流し込み、ペレの住処を徹底的に破壊してしまいます。

こうして、カマプアア優勢のうちに幕を閉じようとしていた戦いですが、地底の神々がペレの味方につきます。桁違いに大量の熔岩が流れ出し、カマプアアも防戦しきれません。彼は「草むら」へと姿を変え、これによって熔岩の流れを変えようとしますが、熔岩のほうが多すぎて草むらが燃え始めます。彼はあわてて豚の姿に戻りますが、体のそこかしこにやけどのあとができています。言い伝えによれば、豚のお尻に毛が生えていないのはこのせいだそうで。。

ペレの追撃は凄まじく、ついにカマプアアも戦いを捨て、魚、フムフムヌククアプアアに姿を変えて、川から海へと脱出します。フムフム・・・の分厚い皮膚は、既に溶岩流によって沸騰しかかっていた川でも大丈夫だったようです。その後の言い伝えは諸説あり、カマプアアはオアフに戻って普通の結婚生活を営んだ、とか、ペレとの講和条約?により、ハワイ島を2分して統治するようになったなど言われています。

戦いが終わり、平和が訪れます。ペレも冷静さを取り戻し、カマプアアに対して、もう一度やり直そう、などとラブコールを送ります。しかし、カマプアアは丁重にこれを断り、お互いに関わり合いを持たないことがお互いにとってもっとも幸福だ、とペレを説得したのです。

「ペレ信仰」というものがあり、ペレに対して、具体的にはキラウエアの火口に様々な捧げものをする習慣があるのですが、ペレにもっとも喜ばれるのは「豚の捧げもの」、豚が手に入らないときはその替わりとして、フムフムヌクヌクアプアアを捧げるのは、この伝説によるものです。

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