以下の植物は全て19世紀までにポリネシア人が持ち込んだものです。
■カロ(タロイモ)
ハワイほど熱心にタロイモが栽培されている土地は世界にありません。栽培方法にも改良
が積み重ねられ、異種も300種類を数えます。アフプアアごとの微妙な気候の違いに適
したタロイモが栽培されているのです。用途で見ると、ポイを作るためのタロイモがなん
といっても一番たくさんあります、葉を薬用にするためとか、とにかく大きな葉を育てる
ためのタロイモというものも存在します。また、酋長クラスに愛好された、香りを楽しむ
ためのカロというのもあったといいます。こうした「高級カロ」が育てられる水田は、き
っちりと石垣で囲って厳重に管理されていたようです。
カロを育てるには水源から冷たく澄んだ水を引いてくる必要がありました。このため、ア フプアアの中心を流れる川の上流から水田に水を引き入れてカロ水田を潤すのですが、
水 田を巡って濁った水はそのまま川や海に流したりせず、いったん地下に流して浄化したあ と再び川の下流に放流する、という環境に配慮した灌漑工事が行われていました。
新しく水田を開墾した場合、地盤を固めるための土ふみの祭りが行われました。アフプア
アの酋長の主催で村の老若男女が招待され、全員で水田に入って土を踏み固めるのです。
これは、歌ったり踊ったりしながら土を踏むという結構楽しい催しだったらしく、平民に
混じって、普段は接触することがカプとされる王族達も参加していたといいます。土ふみ
が終わると海に入って体を洗い、さらに川の真水できれになると、大宴会が催されるのが
恒例でした。そして、翌日からカロの苗の植えつけがはじまるのです。
また、カロ水田を仕切るあぜ道にはバナナやサトウキビ、ティーやワウケなどの有用な植
物が植えられ、さらには水田の中で、害虫駆除の目的もあって魚が育てられていました。
土地を100%利用しきっていたのです。
カロはハワイの神話や宗教にも一役買っています。第1章でも述べたように、創造神ワケ
アが、自分の娘ホオ・ホクカラニとの間に作った子供ハロア・ナカウラ・パウリは産み落
とされた時点で死んでいましたが、その子を埋めた場所から芽を出したのがハワイ最初の
タロイモといわれています。2番目の息子ハロアはハワイアン全員の先祖となった神です
が、彼は出会うことのなかった兄を偲ぶ意味でもタロイモをこよなく大切にし、また、大
切にすることをハワイの伝統としたのです。
ハワイアンにとっては、タロイモは、いわば血を分けた兄弟ということになり、タロイモ
が主人公の「空飛ぶカロ」など、伝説にも事欠きません。カラカウア王は常々自分の系図
がハロアまで遡れると主張しており、1883年に行った戴冠式では、タロイモの葉のデ
ザインをした王冠を身に着けました。
さらに、タロイモは四大神の1人カネから誕生したという言い伝えもあり、男性(カネ)
しか栽培を許されなかったともいいます。
■ウアラ(さつまいも)
タロイモが1年に1回しか収穫できないのに対して、ウアラは3ヶ月~6ヶ月で成熟し、 また、カロ水田ほどふんだんに水を利用できない乾燥した場所でも栽培できたので重宝
さ れていたようです。
ウアラは数多いポリネシアの植物の中で唯一、「南米」が原産の植物です。数多くの研究
者がその起源について研究していますが、詳しい伝播ルートについては今も謎に包まれて
います。
ウアラはカロほどには神聖な食べ物とはされていませんが、面白いことに「カネ・プアア」
(カマプアアではない)、直訳すると豚男、というウアラの神様がいます。
この神の特徴は、なんと鼻で土を掘ることができることで、それがさつまいもを掘るのに
適していると考えられたようです。カネプアアには豊作を祈願した祈りが捧げられました。