厳しく長い訓練も終わりに近づき、卒業式の頃になると、カプはいよいよ厳しくなり、最
後の数日間は、生徒達は家に帰らず、ハラウの中で過ごします。しかも必要なとき以外は、
外で何があろうと一切無言のままです。
【カプの解除】
卒業式の前夜、生徒達は全員、海に入って沐浴します。ここですべての穢れを流し去るの
です。海への行き帰りは体に何も身につけず、また、決して後ろを振り向いてはいけない、
とされていました。その間クムはハラウで生徒達を持ちうけ、帰ってくるとクムみずから
一人ひとり聖水で清めて、プレ・ホオノアを詠唱します。これでカプが解除されるのです。
続いてクム自身が身を清めに行き、クムが不在の間は「コクア・クム」が業務代行します。
クムは入り口まで戻ってくるとメレ・ウェヘ・プカというまじないを唱え、再びハラウに
入ります。
清められた体で、再び容赦なく練習が続きます。この練習は明け方近くまでおこなわれ、
生徒はぐったりと横になります・・と、束の間のまどろみの後、ドラムの音でたたき起こ
され、祭壇前に整列します。ここでカプ解除のチャントを全員で唱えます。いよいよ卒業
式がはじまるのです。
これまで、体は清潔にしていたものの、訓練中の数ヶ月間、一切のおしゃれとは無縁で、
髪はぼさぼさ、髭は伸び放題だった若者達は、せいいっぱいのおしゃれをし、香りを身に
つけて盛装します。が、フラの衣裳をつけるにもルールがあり、それぞれの衣裳に対応し
たオリをうたいます。
【フラの正式な衣裳に着替える】
最初はクペエ(レグレット)。鯨の歯や骨や貝細工、犬の歯などでできています。
身に着けるときにはクペエのオリを唱えます。
つぎにパウ(スカート)。もっとも重要な衣裳です。晴れ着として使うパウはカパ布ででき
ていました。パウのつけかたも一定のルールがあり、また、パウのオリを歌います。
最後がレイ。適切な花でできたレイを、レイのオリを唱えながら身に着けて完成です。
【卒業式】
生徒達はクムの前に集まり、クムが差し出した手の上に自分達の手を重ねていきます。そ
して、これまで学んだことが決して記憶から消え去らないように誓いを立て、おごそかに、
古い祭壇を解体するのです。
この日のために厳選された黒豚が準備され、テーブルで切り分けられます。今日の主役は 生徒達。ベテランのホオパアたちが肉を切り分けてくれます。内臓もきち
んと分けられ、 特に脳みそ(ロロ)が重要とされました。これにちなんで、この祝宴の名前も「アイロロ」 といいます。
再度、カプの解除の祈りが唱えられ、宴会がはじまります。ハワイでは女性は豚肉を食べ
てはいけなかったはずですが、この日だけは別です。また、男女が一緒に食事をとっても
いけなかったはずですが、この日だけは別です。宴会が終わると、クムは再度カプの解除
を唱え、卒業式は完了です。生徒達はもはや生徒ではなく、一人前のフラダンサーとして
認定されたのです。
ここまでの儀式は全てハラウの中で行われていましたが、式が終了すると、宴会の場は屋 外へと移動し、朝からかけつけていた親戚や友人も一緒になっての大宴会
がはじまります。 クムも率先してドラムをたたき、歌と踊りが延々と続きます。みな、みな、一人前になっ た元生徒達をこころから祝福しているのです。この、卒業記念フラ、
とでもいうべきセレ モニーを「ウニキ」といいます。晴れて、フラ社会に仲間入りする儀式なのです。
ハラウで優秀な成績を収めたものは王宮に招かれて、王族達のためにフラを踊ることにな
るということもあれば、旅に出て、興行のようにフラを舞うものもいました。さらに、特
に見込まれた一部の生徒達はクム・フラになることもありました。