ハワイの神話と伝説~神話伝説の探求者~ハワイ神話伝説の集大成

■Martha Warren Beckwith

1871年マサチューセッツで生まれ、ニューヨーク北郊のVassar大学で「民話学」という分野で権威ある業績を挙げた学者です。 彼女の父親がハワイのプナホウ・スクールで教鞭を取っており、また、マウイ島に土地も持っていたことから、幼少の頃より ハワイへは何度も出かけており、ハワイの人々との親交も深かったようです。

Bishop museum(Bishop Hall)

彼女の専門領域はハワイだけに限らず、ジャマイカ、アメリカインディアンなど多岐に及びますが、 もっとも力が入っていたのがハワイ関係だったのは小さい頃からの体験に基づくものなのかもしれません。 1938年にVassar大学の教授を引退した後はハワイのBishop Museumをベースキャンプのようにしてハワイへの訪問を行い、より本格的にハワイの神話伝説研究に 取り組みはじめます。



ハワイの神話伝説関連での主要な著書が4つあります。

1つめは、Haleoleの項でご紹介した「The Hawaiian Romance of Laieikawai」(1919)。これは1863年、Haleoleがハワイ語で 書いた本の翻訳ですが、極めて長大な話ですが、原文を省略も意訳もせず、ハワイの人々の思考がそのまま伝わってくるように 考えて英訳されています。ただ、その結果、極めて読みにくく、冗長で退屈ともいえるストーリー展開になっているのはやむを 得ないかもしれません。

2つめは、Kepelinoの項でご紹介した「Kepelino's Tradition of Hawaii」(1932)。この本もまたLaieikawaiと同じく 英語ハワイ語の対訳形式を取っており、原文そのものに加えて、Beckwithの手による注釈が非常に価値の高いものになっています。

3つめが、ハワイ神話伝説の金字塔とも言える「Hawaiian Mythology」 (1940)。それまでに出版されていた新聞記事・雑誌・書籍や、Bishop museumが保有していた膨大な草稿群を分類整理し、 4つの大分類のもとにまとめあげたものです。タイトルは「Hawaiian ・・」ですが、その注釈には広くポリネシア全般の 神話伝説からの考察もあり、極めて包括的でかつ整理されたものになっています。

1つ1つの伝説そのものはダイジェスト版的な紹介ですが、必ずといってよいほど複数の出典が明記されて比較されており、 学術的にも非常に価値の高いものとなっています。
当初はVassar大学から出版されましたが再版の希望の声も多く、初版から30年を経て、ハワイ大学から出版されました。 この本の後にも先にもこれを越える神話伝説集は存在しないといっても過言ではありません。

最後が1951年刊行の「Kumulipo」。ハワイ王室に伝わる秘伝とされていた2,102行に及ぶ長編叙事詩の 完全な翻訳と詳細な解説ですが、なんと彼女が80才のときの著作です。驚嘆すべきエネルギーですね。 これまた好評にこたえて何度も再版されています。

実はほかにも彼女が協力することによって世に出ることができた本がいくつかあります。例えば、彼女の死後2年後に 刊行された、Samuel Kamakauの「Ruling Chiefs of Hawaii」の翻訳にも彼女は大いに貢献しています。しかし彼女が全体の監修をするには 時期が間に合わず、彼女のほうから「私の名前を編者として出さないで」という遺言があったといいます。(実際の「Ruling Chiefs」には、注釈者の1人として名前が出ていますが。。)

とにかく、ハワイの神話伝説の歴史は、Martha Warren Beckwithの「Hawaiian Mythology」と「Kumulipo」によっていったん完結した、といって良いのかもしれません。


■Miss Beckwithと2人の協力者たち

2人の協力者とは、Miss Laura C.S.Green(1864-1943)と、Mrs Mary Kawena Pukui(1895-のことです。 2人ともハワイ語の権威と言ってよい人物で、Greenはマウイ島マカワオで牧師の娘として生まれましたが、 ハワイの人々に囲まれて育ち、若いころは英語ではなく、ハワイ語で物を考えていたそうです。

Greenの著書として知られるものに下記の3冊があります。
「Hawaiian stories and wise saying」、「Folk-tales from Hawaii」、そして「Legend of Kawelo」です。前の2つはPukuiの共著に近いもので、最後の1つはPukuiの夫が古老から聞いた話を もとにしています。それぞれ、Beckwithが監修として関わっており、3人のチーム活動としての成果かも しれませんね。Beckwithは、生活の基盤をアメリカ本土においていたため、現地のこの2人の協力が大変貴重な 支えになったことは言うまでもありません。

Mary Kawena Pukuiは、のちに「Living treasure」と称されるほどの活躍をしますが、彼女については項を変えてご紹介します。

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