ハワイの神話と伝説~マノアの虹の乙女

【虹の乙女】
マノア渓谷は昔からハワイの人々にとって虹にまつわる神聖な地でした。
渓谷のある山の峰々は皆、神であり、それらの神からは風の神と雨の神が生まれ、さらにその2人を両親として美しい虹の乙女が生まれたのです 。彼女の名はカハラ。マノアの地に霧雨が降るときはいつでも、太陽の光や月の光の中で楽しく遊んだものでした。

【蘇生】
ワイキキにカウヒ、という名の若い首長がいました。彼は鮫の神モホアリイの血を引いており、凶暴で残忍な性格でした。彼は美しいカハラに惹 かれていたのですが、彼女が他の男たちにも人気があることから、勝手に腹を立て、彼女を殴り殺して埋めてしまいます。

しかし彼女には、プエオ、という名の、ふくろうの守護神がついており、プエオは瞬く間に彼女を掘り起こして蘇生させるのです。カウヒはそれ を知ってさらに腹を立て、また彼女を殺し、そしてまた、プエオが蘇生させるということが、実に6回にわたって繰り返されました。

そしてついに、カウヒは、死体を大きなコアの木の根元に埋めます。コアの根は、地中深くで複雑にからみあっており、プエオがいくら掘り返し てもカハラのからだを引き出すことができません。とうとうプエオもあきらめてその場を去ってしまいます。

ハワイをはじめ、サモアなどポリネシアの人々の間では、人間は死んだ後しばらくの間、その魂がさまよっている、と信じられています。その、 さまよっている魂に気づき、適切な祈祷を行えば、魂は再びからだに戻り、元通りの生活を送ることができる、とも信じられています。

そういうわけで、カハラの魂も、しばらく所在なくそのあたりをさまよっていました。そのうち、もとのからだの感覚がだんだんと無くなってい き、もうすぐ、黄泉の国に連れていかれそうだな、と思ったそのとき、顔見知りのカモイリイリの首長、マハナが通りかかります。カハラは必死 で存在をアピールします。

敏感なマハナは、カハラの魂に導かれるままコアの木のところに到着し、その下を掘ってみると、何と、昔、自分もあこがれていたカハラの死体 が埋まっているではありませんか。マハナはその死体を丁重に持ち帰り、祈祷師(カフナ)であった兄を大急ぎで呼びます。兄はあらゆる技を使 って魂と死体とを再結合させようとしますが、うまくいきません。

そこで呼ばれたのが、マハナ一族の守護神でもあった、精霊の姉妹です。彼女らはカハラの足から魂を呼び戻す、というやり方を用いて見事にカ ハラを復活させました。とはいえ、カハラのからだは相当衰弱しており、マハナは一生懸命に彼女を看病し、2人は本当に愛し合うようになった のです。

【ゴースト・テスト】
しかし。カウヒがいる限り、カハラはいつまた殺されてしまうとも限りません。
そこでマハナは一計を案じ、カウヒのところに出かけていき、口汚くカウヒのことを罵り始めたのです。案の定、カウヒは怒り始め、自分がカハ ラを殺したことを認めたばかりか、怒りで我を忘れた彼は、カハラが既に死んでいることに絶対の確信を持っていたため、「生きているカハラを 俺様の前に連れてきて見ろ。もしできなかったときには、生きたままイムの中で焼き殺してやるからな。」と言い放ちます。そして、審判として カハラの祖父、マノアの山の神の1人であるアカアカが指名されました。

さて、カウヒは、そうは言ったもの、ちょっと冷静になってくると不安が頭をもたげ始めます。あんなにもあっさりとマハナが提案を受け入れた 、ということは、マハナが何か計略を用いて、カハラそっくりの姿になったゴーストを連れてきたりして皆をだますのではないか、という邪推で す。

そこで彼は、彼の一族お抱えの魔術師に相談に行きます。魔術師が言うには、「ちょっと優秀な祈祷師であれば、ゴーストを人の姿にすることく らいのことはできる。だから、お前さんには、ゴーストか人間かをテストする方法を覚えることが必要じゃ。ひとたびゴーストであると見破って しまえば、黄泉の国の番人(spirit catchers)を呼ぶことができる。彼らは、本来、黄泉の国にいるべきゴーストが人間界をうろついていることを許さない。たちどころにゴーストを とらえて、黄泉の国で厳罰に処してくれるはずじゃ。」

「問題は、どうやって、ゴーストであることを見破るか、だが、いい方法がある。柔らかい、アペ(ape)の木の葉を、被告の場所に敷いておくのじ ゃ。この葉はあまりにもやわらかいので、人間がその上にすわろうものなら、どんなに気をつけたところで、必ず葉は破れる。しかし、ゴースト の場合は、皺ひとつできないはずじゃ。」

意を強くしたカウヒはさっそく、裁判の準備を始めます。そして、言われたとおり、審判の前に、アペの葉を密かに、ていねいに敷き詰め、マハ ナとカハラの到着を待ちます。当然、処刑用の準備も万端整えながら。

カハラは、2人の精霊の姉妹に付き添われて会場に向かっていましたが、入り口に着くやいなや精霊達はカウヒの計略に気づきます。もっとも、 カハラは本当に蘇生していたのでその意味では何の心配もないのですが、問題は付き添いの彼女たちのほうです。

カハラをテストするための仕掛けが彼女らのほうに適用され、彼女たちが黄泉の国に連れ去られてしまう可能性大です。かといって、ここで彼女 達だけが引き返す、という妙な動きをすれば、それはそれで怪しまれてしまいます。そこで、彼女たちは、「私たちはあなたの両側に座るから、 あなたが座るときに、できるだけ大げさに、私たちのぶんまでアペの葉をくしゃくしゃにしておいてちょうだい。」と頼みます。

そして、カウヒはじめ、彼の一族が虎視眈々と見守る中、カハラはどきどきしながらも、審判の前に大げさな素振りで着席、誰から見ても、彼女 はマノアの山の神の子孫、正真正銘の人間の子であることを示すと同時に、両側の精霊達の存在も隠し通したように見えました。

しかし、カウヒもまた敏感なところがあり、カハラの両側の女性達のやや不自然な動きに、微妙な怪しさを感じ取ります。そこで、カウヒは、「 この2人をテストする必要がある!」と宣言します。

こんどのテスト方法は、山の神アカアカ自身が提案します。ハワイの人々の間では、ひょうたんの椀に汲んだ水は、精霊の顔を映し出す、と信じ られています。また、人間が顔を映した場合には、映した瞬間だけ、霊魂が、からだから離脱する、と言われています。

カウヒ一族の魔術師が、すぐさま熱心に椀の用意を始めます。が、カハラ達の中の精霊をとらえることに夢中になるあまり、不覚にも、自分自身 の顔を椀の中に映してしまいました。その瞬間を見逃さなかったアカアカはすぐさま逞しい手をのばして椀の中の精霊をすくいあげ、魔術師のか らだから霊魂を奪い取ってしまいます。 (実は、アカアカはカハラの味方だったのです)

そうして、これまで全ての悪事が明らかにされたカウヒは、その場で、イムで蒸し焼きにされてしまい、カウヒの領地や財産はすべてマハナとカ ハラに与えられた、ということです。

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