これまた昔、マウイが活躍していた頃、太陽は今よりもずっとずっと熱く、また、ずっとずっと速く動き、月はその逆にゆっくりと動いていまし
た。結果、夜の時間は昼に比べて大変長く、また短い昼の間は、耐えきれないほどの灼熱の世界になっていました。
なぜそんなことになったかというと、そもそもマウイが空を高く持ち上げてしっかりと固定してしまったために、太陽がたやすく通り抜けること
ができるすき間ができてしまい、そのせいで、太陽の熱さが、より直接的に大地に届くようになり、また、猛スピードで太陽が走り抜けることが
可能になってしまったからです。
様々なトラブルが起こりました。
その頃マウイの母ヒナの主な仕事はカパ(Kapa)の生地で衣服を作ることだったのですが、樹皮を洗って乾かそうにも、乾くひまなく日が暮
れてしまいます。また、料理を作っても、その日のうちに(明るいうちに)終わりません。明るいところで唱える、神々への祈りも、あっと言う
間に日が暮れてしまうので、中断せざるを得ないような状況でした。
マウイは、ここはひとつ、馬鹿者の太陽を懲らしめてやらねば、と決意します。マウイは、当時、島の北西のほう、渓谷の美しさで知られるイア
オ山のあたりに住んでいました。太陽の軌道を見届けようと、山の尾根に上ると、ちょうどハレアカラ山の東の方から上ってくるのが見えました
。
早速マウイはハレアカラ山に登ります。なんと、燃えさかる太陽は、東のほう、コオラウから上がってくると、その後真っ直ぐにハレアカラ山頂
を通り過ぎて行くではありませんか。
マウイは太陽の軌道を確かめると、いったん家に帰り、ヒナに、「太陽の脚を切り取って、素早く移動できないようにするつもりだ」と告げます
。ヒナはそれを聞き、15ストランドの長さの丈夫なロープを彼に与え、残りの必要なものは、ハレアカラ大火口に住んでいる彼の祖母のところ
にもらいに行くように言います。
ヒナが言うには、「おまえはまずハレアカラに登ったら、大きなウィリウィリの木のところに行かねばならない。そこは、おまえのおばあさんが
作った焼きバナナを食べるために、太陽がいったん必ず立ち寄るところなの。そして、雄鳥が3回鳴くまでじっと待つこと。そうすると、お前の
おばあさんが出てきて、火をおこし、バナナを焼き始めるわ。お前はそのバナナを盗み出さないといけない。彼女はバナナをさがしに行き、お前
を見つけ、「いったい誰だ?」と聞くはずよ。おまえはそのときはじめてヒナの息子であるとこたえるがいい。」
マウイは言われたとおり、カウポの方角に、山を登りにいき、そこでウィリウィリの木を見つけます。そこで雄鳥が鳴くのを待ち、おばあさんが
バナナの房を持って出てきて調理をはじめるやいなや、それを盗みます。おばあさんはそれに気がついて怒りますが、何しろ彼女はほとんど目が
見えないので、あきらめて別の房を持ってきます。しかしそれもまたマウイが持っていってしまい、またおばあさんは別の房を用意し、、という
ことが繰り返され、とうとうバナナは無くなってしまいました。
目の不自由なおばあさんは、彼女の周りの匂いを丹念に嗅いでいき、とうとう人間の男の臭いに気がつきます。「おまえは誰だ?どこの者だ?」
マウイはそこではじめて、悪い太陽をつかまえて、もっとゆっくり動いていくようにしたいことを告げます。
おばあさんは彼に魔法の石で作った斧と丈夫なロープを授けてくれ、次のように言いました。「この大きなウィリウィリの木のそばにかくれて、
太陽が来るのをじっと待ちなさい。太陽の最初の脚がやってきたら、素早くそれをつかまえ、この丈夫なロープで、ウィリウィリの木にしっかり
と縛り付けること。その上で太陽の身体に斧を振りかざせばよい。」
マウイは樹の根の近くに穴を掘り、そこに隠れて太陽を待ちました。やがて最初の光・・・1本目の脚が現れ、マウイはそれをしっかりとつかま
えます。太陽には16本の長い脚があったのですが、次々とマウイにとらえられます。太陽は必死に逃げようとしますが、ロープは堅くウィリウ
ィリの木にくくりつけられていて身動きができません。暴れる太陽。そこをめがけて斧で斬りつけるマウイ。
とうとう太陽は「命だけは助けてくれ」と悲鳴を上げます。「いや、おまえを生かしておいたらロクなことはないからな」「何でも言うことをき
きます」といった会話の後、太陽は、もっとゆっくりと動くこと、夏と冬で動くスピードを変えることなどを承諾させられ、今の動きになった、
ということです。めでたしめでたし。