トンガ王国の主島、トンガタプに、直径60センチくらいの大きな穴があいた、奇妙な岩があります。この岩は大昔、タンガロアがトンガの島々を釣り上げたときの釣り針の跡だと言われています。。。ここでご紹介するのは、いかにしてタンガロアがトンガの国を造り上げたかという物語です。
芸術と発明の神として知られるタンガロア(タンガロア・マツア)が、その昔、天空にあるボロツというところに座って下界の海を眺めていたときのことです。
「・・・腹が減った。魚が食いたいものじゃ。」とつぶやきながら亀の甲羅で作った大きな釣り針を下界にどんどん垂らしていきました。
すぐに手応えがあり、タンガロアはぐっと力を込めて竿を引きました。ところが引いても引いても魚が上がってくる様子がありません。不審に思って下を覗いてみると、なんと、彼は魚ではなく、大きな大きな岩を釣り上げていたのでした。しかも、岩は1個ではなく、何個もつながってきているようでした。さらによく見ると、彼は海底そのものを持ち上げつつあったのでした。
彼は笑い、「今日はご馳走はあきらめた。そのかわり今日は島々を作って楽しむことにしよう。」と言い、釣り針にかかった岩をはずしにかかり、ばらばらと散らばった岩が群島を成していきました。
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次にタンガロアが考えたのは、島のかたちができたので、今度はその美しい島にふさわしい生き物を創ることでした。彼は2人の息子、タンガロア・ツフンガとタンガロア・エツマタツプアを呼びました。息子達は父親の側におとなしく座り、何かを彫り出すことに熱中している父からの指示を待ちました。
父は彫刻の削りかすのほうをナイフで指し示すと、「息子達よ。今からこの削りかすを海に撒く。お前達は鳩になって飛んでいき、それらがどうなったかを見てきてくれ」と言いつけます。
ところが鳩になって飛んでいった息子が見たものは、単に海の上を漂っているゴミでした。翌日も父は息子達を呼び、同じ事を繰り返しますがやはり結果は同じでした。
来る日も来る日も削りかすを撒いては、息子が様子を見に行っていましたが、とうとうある日、削りかすが集まってとても美しい島になっているのを見つけました。早速父にこのことを報告すると、父親は満足そうにうなずき、「そうか、よし、それは次にこの種をくちばしにくわえて島まで行き、それを植えてきてくれ」と言います。
その種は蔓草の種で、瞬く間に島中を覆うような蔓草に育っていきます。息子は根っこの方をつまんで急降下しましたが、あまりにも強くつまんでいたために、蔓草は2つにちぎれてしまい、根っこの方は見る見る腐っていきました。
驚いた息子がこのことを報告すると、父親は笑い、「今度はもっとびっくりさせてやろう。もう一度島に行って、根っこが腐ったあたりをよく見てご覧。」
言われたとおりに行ってみると、そこには大きくておいしそうな白い虫が這っていました。息子は(鳩なので)思わずそれをついばむと、虫は2つにちぎれ、まず頭の方からコハイという名の人間が生まれ、次に尻尾の方からクアオという名の人間が生まれてきました。また、くちばしの中に残っていた切れ端からはモモという名の人間ができました。
事の成り行きに大変満足したタンガロアはこの島をエウエイキ、と名付けました。この島こそがトンガで最初に人間が住んだ島となったのです。(現在のエウア島) そして、ツイ・トンガと呼ばれる、トンガの聖なる人々の系譜の最初に位置づけられるのが最初に生まれたコハイのはず、なのですが、実際はアホエイという人間がその栄誉を担っています。
なぜなら、コハイは虫から生まれた人間であり、アホエイはタンガロアを父とする由緒正しい生まれだからです。このアホエイについては次のような物語があります。
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タンガロアは、時々、大きな鉄木の幹をつたって下界に降りてくることがありました。ある日、タンガロアが下界をウロウロしていると、イラヘバというとても美しい娘に出会いました。彼女のあまりの美しさにタンガロアは一目惚れし、天上に戻ってからも日がな彼女のことを考えている有様です。タンガロアには天上に妻も子供もおり、イラヘバに会いに下界に降りていくのはなかなか至難の技で、やがて全く下界に来ることはできなくなってしまいましたが、それでも、イラヘバを妊娠させるには十分な時間があったようです。
その子供こそがアホエイその人で、彼は美しくも逞しい若者に成長し、やがて母親のイラヘバに「天上に行って父さんに会ってみたい」とうち明けます。天上への道は大変険しいことをイラヘバは知っていましたが、細心の注意を与えてアホエイを送り出し、彼は無事、天上に到着します。
ところが天上でこのことをじっと見ていたタンガロアの息子達は面白くありません。父親がこの美しいアホエイを歓迎することが目に見えていたからです。そこで、アホエイが天上に着くやいなや彼を斬り殺し、頭は藪に捨て、身体は食べてしまいました。
この野蛮な行為を知った父タンガロアは、息子達を集め、まずアホエイの頭を持って来させると、それを聖なるカバ酒の器に入れ、次に息子達が食べたものを器の中に吐かせました。そして一晩中、息子達をその器の回りに立たせておいたのです。
すると、夜明け頃、なんと、器の中からアホエイが元通りに復活してきたのです!タンガロアは厳かに宣言します。
「アホエイは平和と友好の目的で天上に来た。それなのにお前達はアホエイのことを嫉妬の目でしか見なかった。お前達はみんな地上に降りてしまえ。これからはアホエイがお前達の上に立つ。アホエイとその子孫が永久にトンガの王として統治するのだ。」
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半神のアホエイは、紀元950年頃実在したと言われています。ツイトンガと呼ばれるトンガ王家はアホエイを祖としており、この系譜は1865年に第47代の最後のツイトンガ、ラウフィリトガが没するまで続きました。