ミクロネシア各地には、恋人達にまつわる伝説が多く残っています。ここでとりあげるのは、パラウで広く伝えられる、ひょっとするとどこかで聞いたような話ですが、こういったモチーフは世界共通なのかもしれません。(右下の画像はUniversal Music:Pure
HawaiianのCDジャケットから)
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昔、パラウにオレングという美しい娘が住んでいました。彼女の家は貧しくて、母親は常々、オレングを金持ちと結婚させて楽な暮らしをしたいと考えていました。彼女には、ウギラマリアという恋人がいました。彼もまた、亀を捕って、べっこうの加工で生計を立てる、という貧しい暮らしでしたが、ハンサムで、優しい若者でした。彼は、いつの日にか正式に彼女に結婚を申し込みたいと思い、一生懸命働いていました。
そんなある日、ゴシレク、という極めて羽振りの良い男が、オレングの住む村にやってきます。彼はカヌーの船団を所有する酋長で、財産だけは人一倍持っていたのですが、たいへん醜い顔をしていたために、中年を過ぎてもまだ独身でした。
彼はたまたま漁の帰りに村に立ち寄っただけでしたが、話をききつけたオレングの母親が早速彼に娘を紹介します。ゴシレクは美しいオレングを見て一目惚れ。2人の結婚の話はオレングを抜きにしてトントン拍子に進みます。
オレングは母親に「私は愛し合って結婚したい。あんな醜い年寄りと結婚するのは嫌!」と懇願しますが、「何をばかなことを言ってるの。私らのような貧しい女は愛で結婚するもんじゃないよ」と、全く取り合ってくれません。オレングはウギラマリアに相談しに行きました。彼は「僕にもっと年齢と財産があれば」と、悲しみに暮れますが、何も打つ手が見つからず、結局オレングは父親ほども年の離れたゴシレクと結婚することになってしまいました。
盛大な宴会も終わり、ゴシレクは花嫁を自宅に連れて帰ります。しかし、オレングは実家の村のほうを見やってため息をつきながら日に日にやせ細っていきます。ゴシレクはまた優しい男でしたので、彼女がホームシックにかかっているのだと気遣って、「1回実家に戻ってみるかい?」と声をかけます。
オレングは、ゴシレクには悪いと思いながらも、実家のある村に戻るやいなや、こっそりとウギラマリアに会いに行きますが、2人の逢い引きはこれといって打開策のない悲しいものでした。彼女は再びゴシレクの家に戻り、ウギラマリアが漁に出ているはずの海を見ながら暮らしていました。
ある日、彼女はウギラマリアに何か贈りたいと思いつき、日頃つけていたココナツオイルをココナツの殻に詰め、ウギラマリアに届くよう祈って海に流します。ココナツは、ほどなくして、亀を捕っていたウギラマリアのところに届きました。彼は、実は、死にもの狂いで働くことで彼女のことを忘れようとしていたのですが、ココナツを手に取るやその場で倒れてしまい、病の床についてしまいました。
オレングはもう一度実家に戻らせてくれないか、とゴシレクに頼みます。ゴシレクは、可愛い花嫁のためなら、と快諾し、従者をつけて送り出しました。その途上、ウギラマリアがとうとう死んでしまった、というニュースが彼女の元に届きます。彼女は、従者に「私を1人でウギラマリアのところに行かせてほしい」と頼み、みんなを戻らせました。従者から「ウギラマリア」という名前を聞いたゴシレクは、「親族の誰かだったかな」と、あまり深く考えず、ウギラマリアの家宛に、盛大な葬式の贈り物を届けようとさえします。
オレングは青白い顔をしながらも、身体を清め、精一杯の化粧をし、精一杯のおしゃれをしてウギラマリアの実家を訪ねます。そこでは多くの弔問客が、食べ物を供えたり、悲しみの歌を歌ったりしていましたが、オレングは、飲まず、食べず、歌わず、死に花に埋もれた彼の側をかたときも離れようとはしませんでした。
やがて、弔問の期間も終わり、遺体にカバーがかけられるときになって、オレングは突然「私も一緒に埋葬して!」と彼の身体に重なるように身体を投げ出し、そこで息絶えてしまったのです。
その直後、ゴシレクからの贈答品を持った従者が来訪し、一切のできごとが知れてしまいました。従者は大急ぎでゴシレクのもとに帰り、これまたオレングの帰りを楽しみに、崖に立って海のほうを眺めていたゴシレクのところに走ります。
「えらく早かったじゃないか、どうしたんだ?」
「実は、美しい奥様がお亡くなりになったのです。それに・・・・」
ゴシレクは、大変な衝撃を受けました。彼は、彼なりにオレングのことを深く愛していたのです。彼は、あまりの悲しみに、そのまま崖から身を投げてしまいました。
オレングは、愛する人と自分自身のために、べっこう細工のイヤリングを作っていました。彼女のは半月形、彼のは盾の形をしたものです。パラウの恋人達のあいだでは、このべっこう細工のイヤリングの交換と共に、オレングとウギラマリアとゴシレクの物語を歌った歌が長い間歌い継がれてきたということです。