この物語は、火の女神ペレが長い旅の末にやっとハワイ島に落ち着き、妹達と一緒に暮ら
していたころのお話です。
昔みんなでカヒキを出発したときにはまだほんの幼い子供だった一番下の妹ヒイアカも、
今ではとても美しい少女に育っていました。
また、ヒイアカには、ここハワイ島でとても仲の良い友達もできました。名前はホポエ。
ホポエはフラを踊るのがとても上手で、ヒイアカは毎日のようにホポエのところに出かけ
ては、彼女からフラを教えてもらっていました。ヒイアカのほうは、きれいな声で歌を歌
うのが得意だったので、2人のアンサンブルを、ペレをはじめ、みんなに披露することも
ありました。
そんなある日、一番上の姉、女神ペレが妹達を集めます。ペレはパホエホエという滑らか
な溶岩の洞窟で横になり、おごそかに宣言します。
「私は今から長い眠りに入るの。かなり長い眠りかもしれないけれど、決して起こしては
ダメ。洞窟の外で何かあっても放っておいて。もしも、私の睡眠を妨げるようなことを
したら、その者には死を与えますからね。」
と、一方的に妹達に言い渡すと、たちまち寝入ってしまいました。
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ペレは眠りに落ちることによって自分の魂を遠くに旅立たせたのでした。魂となったペレ
は、しばらくの間、「もや」のような空間を漂っていましたが、やがて、どこからかかす
かにドラムの音が聞こえてきます。その音がするほうに進んでいくと、音はだんだん大き
くなり、やがて人々が賑やかに騒いでいる声までが聞こえてきました。
実は、賑やかなその場所はカウアイ島。おりしも、カウアイの若くてハンサムな酋長であ
るロヒアウが、友人達を招いて宴会をしている最中だったのです。
ペレは、美しい衣裳に身を包み、大変ゴージャスな美女の姿をして宴会のまっただ中に現
れていきました。人々はみな「あれはいったい誰だ?」「あんな美人がこの島にいただろ
うか?」などと騒ぎ始めます。
そんな注目の中、ペレは物怖じすることもなく宴席を横切り、堂々とロヒアウの隣に腰を
下ろしました。それまでロヒアウの隣には美しい女性がすわっていましたが、ペレに圧倒
されて思わず席をゆずります。当のロヒアウはというと、完全にペレの魅力に飲み込まれ
てしまいました。目はペレに釘付けで、上の空で挨拶を交わし、ご馳走を進めます。
宴会も終わり、ロヒアウはペレを自分の家に招き入れます。その夜も、次の日も、そのまた
次の日も、彼はなんとかペレをわがものにしようと努力しますが、ペレが許したのは
キスまでだったといいます。
そして3日めの夜、珍しくペレのほうからロヒアウの手を取り、静かに話しかけます。
「私もあなたのことを愛しているの。でも私はハワイ島のプナに住んでいて、もうすぐ
家に帰らないといけない。近いうちに必ず迎えのものを寄越すから、そのときに是非
ハワイ島に来て。5日5晩、夫婦として暮らしてくれれば、あとは自由にしていいから、
それまで必ず待っていてね」と言い残すと煙のように姿を消してしまったのでした。