ポリネシアの神話と伝説~世捨て人「岩山のロリ」

昔、マンガイア島にロリ、という名の世捨て人が住んでいました。ロリの祖父はウナといい、父の名はロンゴアリキ、といいました。祖父も父もたいそう優れた腕を持つ職人で、美しいカヌーや道具を作るだけでなく、ココナツの繊維から丈夫なひもを作ることもできました。また、彼らは彫刻を作るにあたっての魔法も心得ており、これについては一子相伝でロリにも伝えられました。ロリは走ることも得意で、特に切り立った崖や急な山あいなど、信じられないスピードでかけぬけることができました。

そのころ、マンガイアの近辺は戦争が続いており、ある日とうとうロリの住む村にも敵が押し寄せてきたのです。それはそれは激しい戦闘が行われ、祖父も父も、そして仲の良かった姉もみな殺されてしまいました。父は、死ぬ直前、ロリを呼び寄せ、「ロリ、飛んで逃げろ。黒い岩のところまで飛んで逃げ、そこで我が家の伝統と秘蹟を守ってくれ」と言い残して息絶えました。

ロリは胸が張り裂けそうになりながらも、父のもとを離れ、言いつけ通りに急な崖をよじ登って逃げました。彼の足はあまりに速かったので、敵は近くに来ることすらできませんでした。やがて目的の岩のところまでたどり着きました。そこからは彼の村がよく見え、家々が燃え、友人達が殺されたり捕らえられたりしていく様子もくまなく見えました。

ロリは悲しげに村から目を離し、自分の住まいを作る段取りを始めました。そこは小さな谷間で、尖った石がごろごろしており、敵が来ても到底素早くは動けないようなところで、地の利はありました。また近くに洞穴もあったので、彼はそこを住居にすることにしました。

毎夜ロリは一生懸命働き、まずは敵が攻めてきたときの逃げ道を作りました。彼が走るところだけ、尖った石を取り除いて、ならしておいたのです。また、小さな尖った石は、家の近くに敷き詰め、万一誰かが来ても必ず足音が聞こえるようにしておきました。

全ての仕事はうまくいき、彼は何年もの間、無事に生きていくことができましたが、村の人々からは彼のことは徐々に忘れられていったのです。多くの人々は、ロリは死んだと考えるようになりました。

彼は、伝来の技術を用いて様々な道具をこしらえ、また、秘密の小径を通ることによって、夜の間にこっそりと素早く村に行き、新鮮な食べ物、特に果物と、マホガニーの木の実を入手することができました。彼は賢明だったので、単純に木の実を盗んだりせず、新鮮な木の実を盗む代わりに必ず古くなった実を置いていったので、人々は盗みが行われているということにすら気がつきませんでした。・・・このとき以来、マホガニーの木の実は「ロリの栗」あるいは「ロリの喜び」と呼ばれるようになったということです。

また歳月が流れました。ロリも年を取り、肌は古い獣の皮のように、がさがさになっていました。しかし彼の走りは健在で、どんな人々よりも速かったようです。実は彼は数回、村の人々に姿を目撃されたことがあったのです。が、彼はまるで飛ぶように高い崖の上に逃げていったので、誰も彼を捕まえることができませんでした。

さらに歳月が流れ、ロリは本当にひとりぼっちになってしまいました。彼はこれまでの人生のほとんどをたった1人で、世捨て人のように生きてきました。村には、やっと平和が訪れたかのように見えます。しかし今では、村には神の彫像を作れる人間は誰もいませんでした。たった1人、「岩山のロリ」を除いては。

村には、マナウエという、昔々、ロリの友人であった男が生きながらえていました。彼は、時々目撃されると言う、「風のように走る老人」は、実はロリのことではないか、と考えていました。もしそうであれば、ロリの持つ技術は必ず村で役に立つはずです。

マナウエは決心し、ロリが住むと伝えられる断崖の上までやってきて大声で呼びかけました。
「ロリよ、いるなら返事をしてくれ。村に戻って、我らの神を彫る方法を教えてくれ!」
ロリはこれを聞き、大変驚きました。なぜなら、彼はもう何十年もの間、自分の名前が呼ばれることなどなかったからです。これは一体どういうわけだろう?

やがて、声の主が、仲の良かったマナウエだとわかり、彼から、村が平和に戻ったことを聞かされて、ロリは山を下りる決心をしました。彼の帰還は大歓迎で迎えられました。

その後、ロリは、キャプテンクックがこの島にやって来るまで、人々と一緒に何年も生き、神の像をたくさん作ると同時に、人々に彫刻や繊維の編み方も伝授しました。また、彼は村で結婚までしたということです。

現在でもマンガイアの人々はこの「岩山の世捨て人ロリ」から伝えられた技術と知識を持っているということです。

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