一方、ハワイ島のほうではペレがいつまでたっても目を覚まさないので妹達はかなり
動揺していました。ひょっとしたらペレは死んでしまったのではないだろうか?しかし
迂闊に起こしてしまうとこちらが殺されるかもしれない、と思い悩んでいたところ、
ペレの召使の精霊、パウオパラエが騒ぎ始めました。そう、ペレの目覚めのときが
やってきたのです。
ペレは目を覚ますやいなや、「誰か、カウアイ島まで私達の夫になる男、ロヒアウを迎えに
行ってくれない?最初の5日間は私のものだけど、その後は、迎えに行った者の夫に
してもいいわ。ただし、40日以内に連れてくること。さあ誰が行ってくれる?」
妹達は互いに顔を見合わせるだけです。40日ものあいだ留守にすると、気まぐれな姉から
何をされるかわからないということがみんなよくわかっていたからです。
しかし、誰もペレの依頼にこたえようとしないのを見た、心優しいヒイアカは、
みずから「それでは私が行ってきましょう」と引き受けたのです。
「そう、あなたが行ってくれるの。それじゃあすぐにでもしたくしなさい。必ず40日以内に
帰ってきてね。それからもう1つ。ロヒアウはとってもいい男だけど、彼と寝るのは
もちろん、触っても抱き寄せても寄り添ってもダメよ。いい?わかった?」
ヒイアカはうなずき、恐る恐る、実は私のほうからもお願いがあるのですが、と切り出します。
それは、ヒイアカの留守中、親友のホポエを大事にしてやってほしい、ということと、
ヒイアカが日頃から大切に育てていたレフアの森も大事にしておいてほしい、ということ
でした。ペレは「わかってる、そんなことはいくらでも約束するから早くしたくしなさい。
明日の朝には出発するのよ。」と、とにかく急がせます。
そして翌朝、ヒイアカは出発直前になって、なんだかもじもじしている様子です。
兄弟姉妹たちが彼女を見つけ、どうしたのかと聞くと、「旅の勇気を与えてくれるマナを
ペレ姉さんから分けてもらいたいんだけど、言い出しにくくて・・・」とのこと。
ちょうどそこに朝目覚めたペレが通りかかり、「まだいたの!何をぐずぐずしているの!」
と怒り始めました。しかし、一番の上の兄、カモホアリイがとりなしてくれ、
ペレはなんだそんなことかと、太陽と月と星と風と雨と雷と稲妻のマナをヒイアカに
伝授してくれ、さらには、「おまえ1人だけだと心細いでしょうから、お供を
つけてあげるわ」と、召使の精霊、パウオパラエを同行させてくれたのでした。
■■
その頃カウアイ島では、ロヒアウが悲嘆にくれていました。ペレの美貌を一度目にしてしまった
彼は、もうほかのどんな美女を見ても心動かされることはなくなり、ただひたすら、ペレとの
再会を待っていたのです。彼女は待っていてくれといったがいったいどれだけ待てばいいんだろう?
そもそも、彼女はこの世の人間なのか?ひょっとして生きている限りもう2度と会えないん
ではないんだろうか?ロヒアウは来る日も来る日も思い悩み、ある日、とうとう自らの
命を断ってしまったのです。
ロヒアウには親友のパオアという男がいました。パオアは、家に引きこもってしまった ロヒアウをずっと心配していましたが、とうとう命を断ってしまったと聞き、ペレを 親友ロヒアウのかたき、として、必ず俺が復讐してやるからな、と固く心に誓ったのでした。